米国のある調査によると、一般的なアメリカ人は、週に14回は「大丈夫だ」あるいは「うまくいくよ」と言うらしい。
それだけ人は、不安なのだと思う。励ましが必要な人がたくさんいる。
でも、これで大丈夫だと思った瞬間から、大丈夫でなくなる。これが、人生とも言える。
「大丈夫じゃない」文脈で、人生の悲喜こもごもを描くユニークなコマーシャルがある。
ベルギーのビール会社StellaArtoisステラ・アルトの広告。創業1366年の老舗だが、ヨーロッパ市場では販売上手なオランダのハイネケンに押されている。そこで、奇手で攻めようという作戦。
また、コマーシャルの時代設定が、1900年初期というのもユニークだ。当時なら”ビールは貴重な飲料”だろうと、ビール飲みの大人なら容易に想像がつくことを利用している。そして、その玉座に、ステラ・アルトを位置付けている。
①「ドイツ軍から逃げるパイロット」篇
②「息子の恩人」篇 負傷兵として帰還した息子と、息子を戦場で救った恩人をもてなす父
③「神父のアイススケート」篇 監督は、英国アカデミー賞受賞の映像作家ジョナソン・グレーザー
最近は、いぶし銀のようなこの「うまくいかない」広告シリーズの続行が、怪しくなっています。ステラ・アルトが、世界一のバドワイザーとコロナビールの持ち株会社のグループに参入したこともあり、企業運営の変革を迫られているようです。
コロナ禍を体験している2021年時点では、リモートワーク定着で、一人飲みのビール離れが加速し、カクテル飲料に人気が移行。バドワイザーですら、ビール以外の売上が55%になっている。きっと、王者バドワイザーの危機感と変革意欲が、グループ内で強いのだろう。
今や、”ステラの美味しい飲み方”という、動くカタログCMになっている。「大丈夫じゃない」ことが起きている。 悪貨が良貨を駆逐する。変化は、あっけなく訪れる。「広告の質」とはなんぞやという、永遠の課題を提起している。