嘘のようなリアル

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「長い曲がりくねった道を果てしなく向かって行っても、あなたの扉にたどりつけない」というポール・マッカートニーのLong Winding Roadの歌詞のように、人生は意地悪だ。

 

人生は、ねじれて、いびつな、ロング・ワインディング・ロード。

 

幸せなときがあって、心が平らなっても、過ぎた人生の、デコボコが気になり始める。月のクレーターのように無数にある。

 

このような、どこにでもいる、ちゃんと苦労した大人が、ふと見たくなるコマーシャルがあってもいい。子供騙しが多すぎる。

 

どんなコマーシャルでも、人が登場する限り、生活の断面を切り取ったスライス・オブ・ライフである。どの物語を好むか、”見たくなる”感は、人により異なる。

 

”見たくなる”感は、17世紀に近松門左衛門が看破している「事実だからといって、事実をそのまま伝えても、人にそれが事実として伝わるものではない。嘘八百を並べればいいというものでもない。多少の誇張、虚構を加えつつ『真実らしさ』を強調する」。この「虚実皮膜論」が、日本の文学に影響を与えたと言われている。

 

そして、エンターテイメント性のあるいいコマーシャルは、このDNAを受けついでいる。

 

「真実」が正論であるとすれば、「真実らしい」異論をコマーシャルは求めるべきだと思う。

 

「異論」コマーシャルを追いかけてみる:

長野新幹線開通告知に、よくぞここまで、日本アルプスに導く高速観光路線を称賛する正論を、けちらした豪腕に感嘆。

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②注文建築の一戸建ては、他社(住友とか積水)のように”高額商品としての信頼のスペックを紹介すべき”という正論に対して、「ここで、一緒に」”愛情表現としての住まい”を提供するブランド精神を謳う異論を核に据えている。

また、”妻の城”を描写する正論ではなく、さぞかし奥さん側の資金援助があっただろうなと思わせる頼りなさげだけど、愛せる、複雑な夫を演じるリリー・フランキーのキャスティングにもブレない異論を感じる。

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③日本の企業広告といえば、・社員モラルアップに向けたインナー効果・新人就活に役立つリクルート効果・株主を喜ばせる株価効果などが目標であり、正論の揺るがない根拠になる。従業員の明るい笑顔と勤務状況が、サポートエビデンスになる。これらは、全て見事失敗する。しかし、社長ご要望で、後を絶たない。

事例の、三菱重工は、親しみの対象ではない。一人の女性社員を通して企業を紹介して、企業への親しみを感じて欲しいという冒険的異論。近松さんの指摘通り、真実だけではつまらないので、誇張と嘘のスパイスを加えてある。今だと、セクハラで訴えられるでしょうけど。

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④これは、異論というより、異端かな。むしろ捨て身のゲリラ。大手企業を捨てた転職サイトで、中小を追いかける転職希望者を引きつける作戦。全力で走ったことがない、惰性で生きる感をただよわす滝藤賢一のキャスティングにも納得。

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ゆがんで、ねじれた、けわしい道を歩いてきた大人を納得させる「少数決」のコマーシャルが見たい。