パール男子

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銀座通り、女性用のトートバッグを脇に抱えて、シルバーグレイの髪をなびかせて歩いている男性がいた。Iさんに違いないと思い、小走りで追う。「Iさん」と背中に声をかけた、振り向く直前に、人違いであることがわかった。とっさに彼を追い越して手をかるく振って、前の幻のIさんを追った。

 

お馬鹿なあわて者が、横目にミキモトを見る。菅田将暉のポスターが目に入った。まさかのパール男子を追いかけているミキモトに軽いショックをうけた。地下鉄を降りると、壁面のデジタルサイネージでも、彼の胸もとで冷たいパールが揺れていた。

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キャンペーンが成功するにも、失敗するにも理由がある。この場合、コロナ禍という失敗する理由がすでに”ある。

 

ましてや、地球温暖化の影響で、アコヤガイの真珠の育ちが悪く、小粒になっていると聞く。希少化する真珠に付加価値をつけていくマーケティングの常道にさからって、新しいターゲットを求め、ポピュラー化する判断に誤りはないのだろうか。

 

パール男子は、チープで退廃的なゴスロリ・ファッションから生まれた。高級品種の真珠しかとり扱わないミキモトが、パール男子をどう昇華させるかで成功、不成功が決まる。

 

エルメスが、デザイナーを先鋭的なジャン=ポール・ゴルチェに変えても、あくまで顧客に向けた”エルメス流ゴルチェ”を展開したと聞く。”ミキモト流パール男子”は、顧客にどう響くのか疑問だ。

 

ミキモトも同様の疑問と不安もあっただろう。そこで、大きな賭けに出た。コモ デ ギャルソンとコラボし、グローバル・キャンペーンを展開。反骨のパール・ジュエリーのジェンダーレスを、世界に発信した。

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インバウンドの富裕層が期待できない今、ミキモトが打った窮余の策だったと推察する。”真珠革命”の決断に感服する。「世界の女性を真珠で飾りたい」と言った御木本幸吉の思いや、如何に。

 

これで、65万のパールネックレスをつけたIさんなら、後ろからでも間違えないだろう。

 

ミキモトが、間違った人を追いかけていないことを、通行人は祈る。