昔、黒澤明監督が「影武者」の撮影で、勝新太郎を降板させたことがあった。
勝新太郎が、自分の演技の復習のため、ビデオ撮りしたいと言ったのが、理由とされている。
黒澤監督の周辺の人々は「役者のぶんざいで」と批難し、代役の仲代達矢でさえ「黒澤組で仕事するなら、黙って従うしかない」と言った。
(こんなイエスマンの黒沢組を作っていったから、晩年は凡作ばかりで、勝を切った帳尻を合わせていったとも言える)。
しかし、理不尽でも、映画村の”誰がボスか”という掟を守らなかった勝が悪いのである。
この日本の封建社会のルールが、私は嫌いだ。
アメリカでは、”役者のぶんざい”が、学習する機会が与えられている。
リー・ストラスバーグが創設したNYの「アクターズ・スタジオ」に通って、”メソッド・アクティング”という演技法を学習する。
本人に潜在する(親友との別離、葛藤、嫉妬、敬愛とか)体験記憶を刺激して、情緒反応を誘発する演技法。
卒業生には、マーロン・ブランド、ポール・ニューマン、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマン、ジャック・ニコルソン、ジーン・ハックマン、モンゴメリー・クリフト、スティーブ・マックイーンなど、名優ぞろい。
演じるその人になりきるので、心の中をさらけ出す迫真の演技が生まれる。
ポール・ニューマンは、演技している役柄を家庭でも演じ続けるので、”折り合いをつけるのがとても難しかった”と妻のジョアンナ・ウッドワードの言葉もある。
警官役を演じていたアル・パチーノが、偶然出会った街中の暴漢を、(何の権利もなく)逮捕しようとする珍事があったそうだ。
効果があって、恐怖を感じていた体験をむし返すこともあるため、人によってはトラウマになって、心理療法が必要になった場合もある。
この副反応から、危険な演技手法とも認識されている。
アルフレッド・ヒチコック監督が、映画「トーン・カーテン」で起用したポール・ニューマンの演技が素直でなく、ひと癖あって、手を焼いたそうだ。
映画「マラソンマン」で、ダスティン・ホフマンが恐怖におののく心理状況をつくるために、徹夜を続けていることを聞いた名優ローレンス・オリビエが、「演技すればいいじゃないか。その方が簡単だよ」と言ったことが、このメソッドの欠点を表している。
「メソッド俳優は、”写真”を提示してくれる。リアルな俳優は、”油絵”を見せてくれる」との批評もある。
「リー・ストラスバーグの貢献は、もっと評価されるべきだ」と言うアル・パチーノは、『アクターズ・スタジオ』の共同代表になっている。
向上心を持った”役者のぶんざい”に幸あれと思う。
当該ブログは、続行しますが、弟も生まれました。よろしくお願い申し上げます:https://note.com/qphead7