「おばかさん」は、どこにでもいる。しかも、無敵だ。自分勝手だけど、なぜかにくめない。
「おばかさん」は、英語で"moron(モロン)”。ギリシャ語で”弱い心の持ち主”から発している。
必要に迫られて早々と、西暦3年に生まれた言葉。やはり昔から物事の要点がつかめず、間違った解釈をする人は、たくさんいたようだ。
アメリカのA&Wレストランにも、「おばかさん」が現れていたらしい。
A&Wレストランは、A&Wルートビアを売りにしているファストフード・チェーン。
コーラを売りにしているレストランがないように、ルートビアを売りにして客を引きつけるには無理があって、マックには、いつも客を奪われていた。
そこで、窮余の策。
(ここからは、店長とスタッフの販促会議)
「今日も、マックは忙しそうだったけど、ウチはヒマ。でも、店長、ヒマも疲れますよね」
「じゃあ、忙しくしてやろうか。店に客をたくさん来させる方法を考えろ」
「思ったんですけど、マックでも、客はバーガー食べてコーラ飲んで、ウチと同じですよね」
「まあ、そうだよな」
「マックの客をウチに引っ張ってくれば、手っ取り早いと思ったんですけど」
「そうは、カンタンにはいかんぞ」
「すぐ、そうやって、出来ない理由をあげて、つぶしにかかる」
「その、爪を噛むのやめたら」
「わざわざウチに食べに来たくなる理由を、つくってやればいいんですよ」
「フライドポテト食べ放題とか?」
「そんな小さなところで勝負しようとするから、負けるんですよ」
「じゃあ、マックの売れ筋商品に勝負?」
「そーですよ。マックの売れ筋の”1/4パウンドバーガー”に、新商品をぶち当てる」
「ここは、笑うところじゃないんだよな」
「量に勝つには量。"1/3パウンドバーガー"でいきましょう!」
「しかも、同じ値段でか?」
「店長もようやくわかってくれましたね」
「肉のグレードを落とせばできないことはないか」
「じゃあ、企画書お願いします」
「俺は、いいと思うけど、上はどう思うかな〜」
店長の予想は見事外れ、企画書は通り、雑なCMも急ごしらえで出来上がった:
客が来ない問題ぼっぱつ。
「店長、目が真っ赤ですよ。それに、顔が青白い」
「そんなことより、どうして増量1/3パウンドを、客が喜んでないんだ」
「どうも、”マックの1/4パウンドの方が、大きい”と、客は思っているみたいですよ」
「俺も、それは聞いたけど、どうしてだ。1/4の方が、1/3より大きいって、わからん」
「”4の方が3より数字が大きいだろ”と、客はみんな言ってたみたいです」
無敵の”モロン”に負けて、店長は、首を横に振って、静かに店を去った。
あれから、40年。「1/3がダメなら、3/9」というアイデアが浮かんだ社員が現れて、”打倒マック”キャンペーンが復活。
ローカルテレビ局がちょっと話題にしたが、それっきり。
いまや、3/9なんて、誰にもわからない。
”打倒モロン”キャンペーンにすべきだった。
(A&Wは、日本では駐留米兵の希望で沖縄だけに開設されている)
※ドキュメンタリー・フィクション)