コンピュータには見えない

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「優勝を狙わない」と言い放ったプロ野球の新しい監督がいる。(100%の力を発揮させるには、選手をリラックスさせる必要があるという指揮官の深慮を評価して)世間が喝采した。

 

「建前」が優先する日本人の古い大脳皮質を少し刺激したことを望みたい。

 

ひるがえって、広告の世界はどうだろうか。「商品力と営業力と広告力があいまって、物は売れる。広告の力は、人を振り向かせ、関心をかき立てたり、好意を持ってもらえる効果だけで、売上まで約束できない」と、良質の広告をつくってきたクリエイターはみんな心の底で思っている。

 

あの監督のように本音で語ろうよ、世間はそれを待っている。

 

それがどうだろう。広告を経費として考え、投資と捉えない広告主は、「売るための表現になっているか」そのほぼ一点をチェックする。建前でしか見ない。

 

今は、AIが、この手の広告をこのメディアに流せばこれくらいの関心度を獲得できると言って、さらに広告主の背中を押す。クリエイターの計算ではなく、コンピュータの勘を重視する。

 

コンピュータには、計測不能の「表現の質」までは、算入されていない。大きな誤差がある。

 

広告の主語は、私(企業)ではなく、あなた(生活者)であることを今一度、広告主は思い返すべきだ。あなたのターゲットは、等身大で、押し付けがましくないメッセージを望んでいる。

 

ブランドイメージの高い企業と言えばGAFAに、例を引こう。旺盛な企業活動とともにその広報・広告も評価されている。

 

(AMAZON百貨店ではできない)ウエブサイト横断ショッピングの、あの頃の楽しさを思い出させてくれるGOOGLE

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「働く若者の95%の学費を支援します」時間給$15の最低賃金で叩かれているAMAZONからのメッセージ。

www.youtube.com困ったら、FACEBOOKに聞こう、つながっているだれかが助けてくれるかも。

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楽しくもない、疲れる、騒がしい子供との帰省旅行も、APPLEがあれば。

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ユーザー・フレンドリーで、主語は「あなた」で語りかけてくる日本の広告をデザインしてほしい。

 

 

アバターもエクボ

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自分の分身を持つ日がやってくる。

 

自分のアバターが出社して、同僚やクライアントのアバターと会議する。ズーム会議は、もう古い。オフィスも出社も必要ない。打合せが終わったら、おしゃれでバーチャルなパブで談笑する。

 

「え、アバター持ってないんですか?それじゃあ、会議もできないな」とコロナの”ワクチン差別”をうけることになるかも知れない。

 

休みの日は、ARメガネで、予約したライブハウスの席で、アデルの歌を聴く。明日は、ドローンに乗って、アルゼンチンのイグアナの滝を観るつもりだ。

 

こんな近未来のアバターライフを約束すると発表したのが、元facebook、meta。

 

個人のアバターは、meta社に属するので、リース契約となる。性善の倫理をもち、銃を突然乱射するとか、社会犯罪はしない脳内設計になっていると想像する。

 

体温低めの理性的なアバターを、情緒的な感性人間があやつる事になる。このギャップが、どういう”人格”をつくるか、見ものだ。

 

でも、リアル・ライフを離れて、アバター恋愛は生まれるだろう。アバター結婚も想像できる。

 

しかし、しょせんは、meta社のレンタル分身。危険語ストッパーが監視し、3日間の出稿禁止などを課したりする元facebookだから、秩序を乱さない、行儀のいい分身以外は望めないだろう。

 

ロアルド・ダールの小説の「あなたに似た人」のように、銃をこめかみに突きつけてロシアンルーレットをしているような狂気のアバターは、存在しない。

 

アバターは模範的。変な人は、コマーシャルで会うしかない:

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アバター以前の人間は、味があったと、語り継ぎたい。

 

 

 

 

 

おばかさんは無敵

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「おばかさん」は、どこにでもいる。しかも、無敵だ。自分勝手だけど、なぜかにくめない。

 

「おばかさん」は、英語で"moron(モロン)”。ギリシャ語で”弱い心の持ち主”から発している。

 

必要に迫られて早々と、西暦3年に生まれた言葉。やはり昔から物事の要点がつかめず、間違った解釈をする人は、たくさんいたようだ。

 

アメリカのA&Wレストランにも、「おばかさん」が現れていたらしい。

 

A&Wレストランは、A&Wルートビアを売りにしているファストフード・チェーン。

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コーラを売りにしているレストランがないように、ルートビアを売りにして客を引きつけるには無理があって、マックには、いつも客を奪われていた。

 

そこで、窮余の策。

 

(ここからは、店長とスタッフの販促会議)

「今日も、マックは忙しそうだったけど、ウチはヒマ。でも、店長、ヒマも疲れますよね」

「じゃあ、忙しくしてやろうか。店に客をたくさん来させる方法を考えろ」

「思ったんですけど、マックでも、客はバーガー食べてコーラ飲んで、ウチと同じですよね」

「まあ、そうだよな」

「マックの客をウチに引っ張ってくれば、手っ取り早いと思ったんですけど」

「そうは、カンタンにはいかんぞ」

「すぐ、そうやって、出来ない理由をあげて、つぶしにかかる」

「その、爪を噛むのやめたら」

「わざわざウチに食べに来たくなる理由を、つくってやればいいんですよ」

「フライドポテト食べ放題とか?」

「そんな小さなところで勝負しようとするから、負けるんですよ」

「じゃあ、マックの売れ筋商品に勝負?」

「そーですよ。マックの売れ筋の”1/4パウンドバーガー”に、新商品をぶち当てる」

「ここは、笑うところじゃないんだよな」

「量に勝つには量。"1/3パウンドバーガー"でいきましょう!」

「しかも、同じ値段でか?」

「店長もようやくわかってくれましたね」

「肉のグレードを落とせばできないことはないか」

「じゃあ、企画書お願いします」

「俺は、いいと思うけど、上はどう思うかな〜」

 

店長の予想は見事外れ、企画書は通り、雑なCMも急ごしらえで出来上がった:

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客が来ない問題ぼっぱつ。

「店長、目が真っ赤ですよ。それに、顔が青白い」

「そんなことより、どうして増量1/3パウンドを、客が喜んでないんだ」

「どうも、”マックの1/4パウンドの方が、大きい”と、客は思っているみたいですよ」

「俺も、それは聞いたけど、どうしてだ。1/4の方が、1/3より大きいって、わからん」

「”4の方が3より数字が大きいだろ”と、客はみんな言ってたみたいです」

 

無敵の”モロン”に負けて、店長は、首を横に振って、静かに店を去った。

 

あれから、40年。「1/3がダメなら、3/9」というアイデアが浮かんだ社員が現れて、”打倒マック”キャンペーンが復活。

 

ローカルテレビ局がちょっと話題にしたが、それっきり。

 

いまや、3/9なんて、誰にもわからない。

 

”打倒モロン”キャンペーンにすべきだった。

 

A&Wは、日本では駐留米兵の希望で沖縄だけに開設されている)

 ※ドキュメンタリー・フィクション)

 

 

 

 

 

 

 

好きにならずにはいられない

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日本では、最近のコロナ感染者の急減を、どの感染症の専門家も説明できないでいる。

 

米国でも、経済・労働の専門家が説明できない事態が生じている。

 

2年間のコロナ禍で生じた770万人の失業・離職者を充分にカバーする、求人件数が1,100万に達しているのに、いっこうに転職・就職する気配がない。

 

政府や州による充分な失業補償が、労働者に余裕を与えているとも言える。就業条件をよくするためにストライキを計画している労働組合もあると報じられている。

 

燃え尽き症候群、つらくて苦しかった仕事には戻りたくない」と、TIME誌のアンケートにはある。

 

あるいは、GOOGLEのポスト・コロナ対応に「リモートワークを継続したい部署は続けていい」となったように、リモートワークが労働形態に大きな影響を与え、転職の選択肢を増やしているように思われる。

 

また「コロナ前の自分に戻りたくない」と考え、あるいは「自分はこのままでいいのか」自分ブランドの再点検をしているようにも思われる。

 

”慎重な転身”は、理性で考え、感性が反対している。こんなことの繰り返しかもしれない。

 

話題を変える。軽い選択を迫る広告では、感性で捉え、理性が反対している。そんなことの繰り返しかもしれない。

 

たまには、感性が理性をスルーした広告に遭遇する。理屈抜きに、嫌いじゃないコマーシャルです:

 

⭐️いろんな物語を用意しているフランスのテレビ局が、想像力の豊かさを例示する

(どうしてそこにいるのか?男の言い訳を物語に):

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⭐️IKEAの力であっという間に、家を改装したので、間違えが起こったらしい:

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⭐️何の苦労もなしにヘアケアできる。ピタゴラスイッチのように日常が展開するお気軽さ:

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⭐️野菜を食べることは、音も味わっている。ベジタリアンレストランの醍醐味:

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⭐️高精度の操縦性能が明快にわかる:

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昔から言われている「いい商品広告は、いいブランド広告になる」。好きにならずにはいられないCMたちです。

 

 

 

 

愛がガツンとくる

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プロ野球のドラフト会議のあらましをテレビで観た。

 

野球少年を育てた母親や父親や家族との秘話が紹介された。

 

離島の水上タクシーの運転手のお父さんが、揺れる小舟の上で投球させ、息子の体幹を鍛えた。大家族の兄たちが弟のために希望の道を捨て、弟を支えた。長距離ドライバーのシングル・ファーザーは男メシで息子を育てた。

 

興味をひきそうなエピソードを、テレビ局が探しだしたせいか、凄すぎた。うちわの話であり、テレビで公開されるものでもなかったように思った。

 

球速150キロくらいで、少年の戦績はほとんど触れられず、ひたすら家族の絆を描いた。

 

全編、愛が熱い。胸苦しいくらい強い。

 

少年の能力が足りないぶん、愛が必死に追いかけているように思えた。

 

ひたむきな愛は、少年を育て、勇気づけ、前へ進める。反面、プレッシャーにもなる。

 

そして、家族愛に応えられた少年と、応えられなかった少年に分かれる。

 

少年たちは口を揃えて「親へ恩返しがしたい」と言った。

 

ボールじゃなくて、愛をキャッチボールしているようだった。

 

だから、指名されない結果には、やるせなさを感じる。

 

残念な結果をどう受け止めているかを、がっかりした家族に聞くのは、ひどすぎると思った。

 

「さらに、来年の指名を目指して」と司会は言うが、来年がほぼ来ないのは、誰もが知っている。

 

ボックスティシューが、広告主なのかと思うくらい、これでもかと涙腺を刺激した。

 

厳しいプロの壁に、愛がかなわなかった。

 

楽しいはずのスポーツが、厳しく、悲しく映った。

 

澄み切った青空の下、時速159Kmの速球をガツンと打ち返して、外野手が見上げる方向に打球が消える。観客席が、どよめく。野球は、ヒーローを讃えるエンターテイメントだ。

 

涙を見せたら負けだ。白い歯の笑顔が、次のファインプレイを生む。

 

そして、良いことの連鎖反応で、親孝行もできる夢の到達点だ。

 

そんなプロスポーツのたくましさからはほど遠い姿が、テレビ画面にあった。

 

野球を目指さなくても、親孝行はむつかしい

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キャドベリーチョコの親孝行:

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人が好きになる

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小説を乱読していて、ふと思ったことがある。

 

たいてい何かを失くした主人公がいる。

 

プライドだったり、友情だったり、愛情だったり、権力だったり。それらを取り戻そうとして、あがき、もがく、背を向けるなどが、描かれていたり。

 

心の闇の深さが描かれ、物語が深まる。しかし、とどのつまり、紙くずのようなプライドだったりする。

 

一方、失ったものの物語ではなく、得られるものの物語が、コマーシャルである。

 

すこやかなコミュニケーション。小さな良い話が展開する。全て「イエス」から発する。

 

しかし、まれに「ノー」から発するコマーシャルがある。

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「ノー」から入ると、話は長くなる。しかし、ウエブ時代、時間はある。

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否定を超える愛

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否定形から始めると、物語が深くなるような気がする。広告が小説になる。人が好きになる。

 

嘘のようなリアル

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「長い曲がりくねった道を果てしなく向かって行っても、あなたの扉にたどりつけない」というポール・マッカートニーのLong Winding Roadの歌詞のように、人生は意地悪だ。

 

人生は、ねじれて、いびつな、ロング・ワインディング・ロード。

 

幸せなときがあって、心が平らなっても、過ぎた人生の、デコボコが気になり始める。月のクレーターのように無数にある。

 

このような、どこにでもいる、ちゃんと苦労した大人が、ふと見たくなるコマーシャルがあってもいい。子供騙しが多すぎる。

 

どんなコマーシャルでも、人が登場する限り、生活の断面を切り取ったスライス・オブ・ライフである。どの物語を好むか、”見たくなる”感は、人により異なる。

 

”見たくなる”感は、17世紀に近松門左衛門が看破している「事実だからといって、事実をそのまま伝えても、人にそれが事実として伝わるものではない。嘘八百を並べればいいというものでもない。多少の誇張、虚構を加えつつ『真実らしさ』を強調する」。この「虚実皮膜論」が、日本の文学に影響を与えたと言われている。

 

そして、エンターテイメント性のあるいいコマーシャルは、このDNAを受けついでいる。

 

「真実」が正論であるとすれば、「真実らしい」異論をコマーシャルは求めるべきだと思う。

 

「異論」コマーシャルを追いかけてみる:

長野新幹線開通告知に、よくぞここまで、日本アルプスに導く高速観光路線を称賛する正論を、けちらした豪腕に感嘆。

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②注文建築の一戸建ては、他社(住友とか積水)のように”高額商品としての信頼のスペックを紹介すべき”という正論に対して、「ここで、一緒に」”愛情表現としての住まい”を提供するブランド精神を謳う異論を核に据えている。

また、”妻の城”を描写する正論ではなく、さぞかし奥さん側の資金援助があっただろうなと思わせる頼りなさげだけど、愛せる、複雑な夫を演じるリリー・フランキーのキャスティングにもブレない異論を感じる。

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③日本の企業広告といえば、・社員モラルアップに向けたインナー効果・新人就活に役立つリクルート効果・株主を喜ばせる株価効果などが目標であり、正論の揺るがない根拠になる。従業員の明るい笑顔と勤務状況が、サポートエビデンスになる。これらは、全て見事失敗する。しかし、社長ご要望で、後を絶たない。

事例の、三菱重工は、親しみの対象ではない。一人の女性社員を通して企業を紹介して、企業への親しみを感じて欲しいという冒険的異論。近松さんの指摘通り、真実だけではつまらないので、誇張と嘘のスパイスを加えてある。今だと、セクハラで訴えられるでしょうけど。

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④これは、異論というより、異端かな。むしろ捨て身のゲリラ。大手企業を捨てた転職サイトで、中小を追いかける転職希望者を引きつける作戦。全力で走ったことがない、惰性で生きる感をただよわす滝藤賢一のキャスティングにも納得。

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ゆがんで、ねじれた、けわしい道を歩いてきた大人を納得させる「少数決」のコマーシャルが見たい。