1984

f:id:qualitypoint:20210223184254j:plain

腕のアイウオッチの電話が鳴った。腕の時計に向かって話しながら、1930年代に生まれたアメコミの“ディック・トレーシー”が、90年前にやっていたことと同じだと思った。このアメコミが記憶の片隅にあり、スティーブ・ジョブズが、アイウオッチを開発したことは容易に想像できる。

 

ジョブズは、革新的な電子機器だけではなく、凄いコマーシャルも生み出している。 世界の著名なクリエイターによる「最優秀コマーシャル」のアンケート調査があり、回答者のジェフ・グッドビーによると、ジョブズが監修した「1984」がトップに選ばれたそうだ。

 

ジョージ・オーウェルの小説「1984」にヒントを借りて、マッキントッシュというコンピュータの新発売を知らせるものだった。ビッグ・ブラザーによって監視され、支配された人々の群れに革命の旗手が現れるストーリーで、巨大なIBM王国に攻め込むAPPLEを比喩したもの。

www.youtube.com

 

マッキントッシュという新製品がどういうものか、価格も発売日も、どこで買えばいいのかも分からない、新発売告知の要件を果たしていないコマーシャルだった。懸念していた役員会では、取締役全員が放映を拒否し、紛糾した。猛反対にあったジョブズは、取り消しのきかないスーパーボウルの放映だけを敢行。しかし、当時60秒間7,360万円の放映料を会社は払わず、なんと自腹。ジョブズの預金と共同経営者の助けでなんとか切り抜けた。たった1回のテレビ放映で、多くの人々を感動させ、関心を集め、YouTubeなどの動画サイトのない時代に語り継がれ、記憶されるコマーシャルが生まれた。

 

このコマーシャルの編集作業は、徹夜で行われ、目を真っ赤にしてジョブズは、翌朝に予定されていたニューズウイーク誌記者とのインタビューに現れ「出来上がったばかりのCMだけど、一緒に見て欲しい」と言って見始めたジョブズは、肩を震わせ、目から涙が絶え間なくあふれていた。いつものドライでクールなジョブズは、そこにはいなかったと記事に記している。

 

ブランド力は上げたのに、販売結果は最悪。販売予測のミスで商品が行き渡らず、問い合わせに応えられない流通対策の失敗も重なったと、後日ジョブズは総括している。4Pマーケティングで言えば、画期的な商品力(Product)、価値に見合う価格(Price)、説得力のあるジョブズのプレゼン力(Promotion)があったにも関わらず、需要と供給の予測を見誤った流通対策(Placement)が足を引っ張ったという分析だった。しかし、販売戦略を立案・統括するマーケティング・セクションを会社に置かなかったことも一因であり、ジョブズの責任でもあった。1985年にジョブズは会社から追放された。

 

出来上がったばかりの広告作品に感涙したジョブズに感激し、運命を共にすると決めた広告会社はAPPLEは終わった。我々は、IBMの広告の仕事を歓迎します」という衝撃の新聞広告を掲載。広告制作者として黙っていることができなかった勇断に拍手を贈りたい。

 

 

 

 

※下段の🌠マークをクリックしていただけるとうれしいです。

「読者になる」をさらにクリックしていただけると、さらにうれしいです。