ビミョーな関係

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子供は、親の真似をして育つ。鏡対照のようなミラーニューロンという脳細胞の働きによるそうだ。

 

人の進歩、成長は、模倣模索から始まる。模倣といえば、中国が頭にまず浮かぶ。友人の中国人によると、中国の先進化政策として、早く追いつくには、模倣するのが手っ取り早い。しかし、無差別に真似るわけではない。世界の成功者や成功国だけを真似る。例えば世界で一番早く小型経済車を開発したヴォルクスワーゲンは、研究対象であり、中国の街々で多く見かける理由だ。

 

模倣して進歩するためには、著作権は邪魔な存在だ。上海のタクシーで、アメリカのポップ音楽を、中国のバンドが演奏する海賊版CDを聴いて驚いた。なぜ著作権の概念がないのか、上海の政府技官に直接質問をぶつけてみた。「あなたが作曲した音楽をあなたの家族に聞かせて、著作権料を請求しないでしょう。全ての中国人は家族と考えてください」。あなたのものは、我々のものという共産主義が貫かれていたのに、また驚く。

 

一方、パロディやイミテーションとは異なる、インスパイアという概念が容認、歓迎されるのが、芸術であり、広告でもある。オリジナルに刺激されて、別のオリジナルを創る。オリジナルを起点にしているが、全くオリジナルを感じさせない着地点や完成度が求められる。例えば、浮世絵にインスパイアされたゴーギャンゴッホの絵画からは、立体的な透視図法を捨てた2次元の画風を、我々は耽美する。

 

バドワイザー"All Together Now"は、2008年のリーマン・ショックの1年後に、”人々を元気づけようとして”ビートルズの楽曲を使って制作されたCMだった。列車の窓から見える街には、歌詞に合わせて人々がバドワイザービルボードに集まってくる構成になっている。ビル屋上の人々は、チアリーダー、ダンサー、ミュージシャンで、冬の氷点下のシカゴに動員された。

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 ❶JR九州新幹線開通を祝って沿線の人々が詰め掛け、2009年の東日本大震災1年後の視聴者を元気づけた。バドワイザーCMにインスパイアされて企画したことを制作者が明言し、承諾され、オンエアされた

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両作品とも、集団のモブシーンで人々を元気づける構成は同様。しかし、JR九州の場合は、沿線の人々が自発的に歓迎したくて集まって来たセミ・ドキュメンタリーなつくりで、演出されたバドワイザーとは、好感度でも差をつけている。日本の広告賞を独占したが、カンヌ国際広告賞では、バドワイザーCMのパロディだと捉えられ、一度は落選したが、日本側からの強いアピールが認められ、受賞した。第三者にとって、インスパイアとパロディの判定が難しいことを示した。

 

②チョコレートJAPPを食べて元気なトラック運転手が、峠の道で車にもたれかかって休んでいた男を見て、車がスタックして困っていると勘違いし、車を谷底へ突き落とす。元気になるチョコレートを訴求するCM

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 JR東日本スキースキーのCM。雪でスタックした車に友達がもたれかかったら、谷底に落ちてしまった。結果は同じだが、落下のきっかけが違うので、模倣を免れて、日本の広告賞を得た。偶然の一致で、業態が違うということで、パロディを免れた微妙な事例と言える。

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模倣から始まった人間にとって、創造と模倣模索は、臍の緒で繋がっている。インスパイアとパロディは限りなく遠く、近いものだと思う。