スパイク・ジョーンズをご存知だと思いますが、IKEAの「ランプ」というCMでカンヌのグランプリを始め、世界の賞を独り占めした英国の映像作家。
"GOD IS BLACK"のセリフが忘れられない「マルコムX」の映画監督のスパイク・リーとスパイク・ジョーンズを長い間、間違えていたこともあり、私には知ったかぶりはできません。
でも、スパイク・ジョーンズを褒めることはできます。
彼の監督したCMは、目立つ→話したくなる、バイラル喚起型である。しかも、どんなに破天荒な企画でも、ちゃんとコンセプトは抑えている。
例えば、彼の5本のCMの最初のカットを紹介すると、①お店の商品を床に投げる客②マリファナを栽培したジョージ・ワシントン大統領③夢の入口の男④街路テニスの二人の男⑤地下鉄の疲れた女性
彼らや彼女がどういうストーリー展開を見せてくれるか(しかも、マーケティングをしっかり捉えて)興味しんしんです。
このことを、CMを見てから、映像から逆算する。ストプラではデコンというらしいですが、表現から提唱にいたる過程を(TBWAが開発したディスラプション™️で)解剖。
ちなみに、ディスラプション(破壊)思考法とは、(従来の捉え方)→(破壊する)→(提唱)の3ステップで、過去を否定し、新しい未来のコンセプトを導き出す有効な方法です。
①退屈なカジュアル・ブランドのマンネリ化を抱えたGAP。
従来の捉え方(新規性は従来の延長)→破壊する(新規性は破壊から始まる)→提唱(GAPでないGAP)。この考え方で、カジュアル・ウエアのマンネリ化を脱した
②マリファナの誤解を歴史的視点で説いたMedMen(切れ目のないワンショット映像で、歴史の流れを描いた)※MedMenは、ニューヨーク・マンハッタン五番街やカリフォルニア州を始めとする全米33店舗展開の「大麻販売店ディスペンサリー」。先端企業として注目される。
従来の捉え方(マリファナは違法)→破壊する(違法を、昔の合法に戻す)→提唱(マリファナ解禁後のニューノーマル)
③夢の入口で、男はスニーカーを履いたadidas。ハイスペックのNIKEを打倒する品質訴求。
従来の捉え方(自分の足に合うスニーカーがない)→破壊する(究極のフィット感がある)→提唱(世界初のセンサー内臓シューズ)
④NYのオフィス街の通行人を巻き込むハップニング。テニスプロのスーパースター、サンプラスとアガシーが、突然テニスを始めた。1995年としては珍しいドキュメンタリー風の、ゲリラ撮影が敢行されて、話題になったNIKEのCM。
従来の捉え方(テニスは、華麗な休日のレジャー)→破壊する(格闘技スポーツ)→提唱(格闘技ギアNIKE)
⑤コンサートホールの臨場感を再現する最高スペックのスマートオーディオApple HomePod。 部屋の壁や窓への反響音を乱反射させないダイナミックな聴き心地を実感させるため、壁や窓を縦横無尽に移動させた映像づくりが必要になりました。
これは、CGを使ってちゃっちゃとできますが、普通にやらないのが、スパイク・ジョーンズ。壁や窓が伸びたり、縮んだり、動いたり、全部実写でやりたい!とんでもないことを考えたようです。(事情通の友人のCDから指摘されるまで、このCMは、CGで製作されたものと、私は思い込んでいました)。
CMを見た人を「どうして撮影したんだろう」と不思議がらせて、ネットの話題にする。バイラルをつくる古典的ギミックと言える。
目に見せるハイスペック訴求のダイナミックな画像展開ベースとは別に、心に届けようとしているストーリー展開では、従来の捉え方(癒やされるのは、一人になれる自分の部屋)→破壊する(ストレス解消は、逃避ではない)→提唱(美しい音楽空間で、もう一人の自分を見つけよう)※AppleのHomePodは、オーバースペックで高価格のため、2021年に製造中止、安価なHomePod miniに代替えする予定
スパイク・ジョーンズのCMは、目立つ。バイラルを喚起するコンテンツになっている。他方、appleのCMが、ジャミロクワイの(全編CG映像で構成された)”バーチャル・インサニティ”のパロディのように見えて嫌だったのですが、全編実写にこだわった理由がこんなところにもあって納得。もう一度、彼をリスペクトした。